2006-07-01から1ヶ月間の記事一覧

ああノ会連句、爛柯編集部ー歌仙「ナニガホント」の巻

ナニガホント新しき年の光の鋼(はがね)色 夏生 よその星雲より糸手鞠 蓼艸 焼け野原仮面天使に行き会ひて 手留 低速微音第二楽章 那智 月宮殿すみずみまでも透きとほり 浩司 ゐのしし歳の獰猛の子よ 宏 ゥ 質量に時間掛ければ露となる 蓼 人見る旅は自転車…

歌仙行第十一章「思はずの春」(初出「俳句未来同人」平成九年十二月号)

○白泉、渡辺白泉の歌仙がのっているよ、と言われて、少し古い朝日文庫の現代俳句の世界『富沢赤黄男・高屋窓秋・渡辺白泉集』(昭和六十年)を図書館の棚に探した。 うぐひすの近づいて鳴く檜哉 木 庵 いそぎし人の思はずの春 檜 年 雨垂に庇の下をこづかれ…

ああノ会連句、爛柯編集部ー歌仙「音絶えしまま」の巻

音絶えしまま 遅き日や定時退社の影法師 浩 司 猫笑ひゐる春泥の道 夏 生 海氷解くる重き言葉のごとくして 手 留 飛ばす風船しぼみふくらみ 敏 江 じいさんの玉は穴熊月おぼろ 南 天 にゅっとひかりし深葱の白 さなえ ウ 自動車の凍て削ること一時間 浩 別れ…

歌仙行第十章「風交/『朴の花』/連句とは?」(初出「俳句未来同人」平成九年十月号」)

○ 初場所や力漲る大角力 武 翁 男の子生れし朝の薄雪 爛柯人 オートショウ各社苦心の作見せて 翁 七つの海をわたる日の丸 人 随筆を贈られて読む月朧 翁 苺ミルクの好きな御隠居 人 (起三九・一・二〇/三九・八・二〇完「初場所の巻」/オモテ六句) (連句…

ああノ会連句、爛柯編集部ー歌仙「ゑげれすいろは」の巻

ゑげれすいろは冬いくたび鏡の我を手なづける 那智 紡錘形の静物の罠 南天 むささびを天井裏に棲まはせて 蓼艸 暴風に乗り児が飛んで行く 手留 ぶっちぎれた月も時折顔を出し 夏生 青蜜柑の皮千切りの朝 宏 ウ 深秋に訪ねむ伊那の俳諧師 浩司 べったら市に富…

歌仙行第九章「獏の屁と…」(初出「俳句未来同人」平成九年八月号)

○相も変らぬ屋根裏の、自分を棚に上げての老俳諧師のつぶたき。まずはお耳を汚すほどのものでもないかも。 ○近ごろの若い娘は、素足(スアシ)を「ナマアシ」と呼ぶそうな。愕然。「素足」という美しい日本語があるのに、何故? ○断絶である。以前もっと驚い…

風交、連句がゆくー石田波郷の連句への言及

石田波郷著『俳句哀歓 作品と鑑賞』(発行所・宝文館出版株式会社(電話03−3261−4409)1991年9月17日復刻版第一刷)第1部作句心得「俳句の手法」より。(初版は1957年5月20日) 石田波郷が、芭蕉の「菊の香や奈良には古き仏たち」をとりあげ、俳句の手法で…

ああノ会連句、爛柯編集部 歌仙「夏木立」の巻

夏 木 立夏木立生きとし生ける流離かな 那 智 五月静かな男青髭 夏 生 優曇華の黙って揺れる軒下に さなえ 昼酒汲んで太鼓打ち合ふ 手 留 月冴えてイルカオルカを味方とす 宏 半額背広の教師集団 敏 江 ウ 砂漠が街を吐き出す時もあり さ 石の柱の円き手触り …

歌仙行第八章「他者を持たぬ悲しみ」より(初出「俳句未来同人」平成9年6月号)

○独唫についてー。 ○私は独唫を面白いと思って読んだことがない。 ○〈対話詩〉(私はこの言葉を吉村貞司氏に負っているが)という呼び方があるとすれば、その極北に坐るものは、わが俳諧連句をおいて他はあるまい。複数の作者が対話するがごとく句を重ねて一…

ああノ会連句、爛柯編集部/ 歌仙「東風に死ぬまで」

歌仙「東風に死ぬまで」の巻 麦秋やただ一本の滑走路 蓼艸 パナマ帽子が足早に行く 信子 放浪の果冷せいろ啜とよ 手留 大風呂敷を仮畳みする 那智 竹林に今か降りくる月の舟 夏生 虫籠売りの合はぬ勘定 宏 ウ 萩の膕(ひかがみ)ひびく石の橋 浩司 不貞寝二階…

歌仙行第七章「あはれをこしやか」より(初出「俳句未来同人」平成9年4月号)

○まずは連句讃。二句の接続が未知の美を創るというのは実に素晴らしい発見だったろうし、連句一巻「同趣を忌む」つまり一巻の中では同じことをしないというのは、一篇の詩を作るための何と美しい決意であったろう。 一句を共有して二つの接続(断片・部分と…

十干行「失神中」の巻

雪降らば会はめと言ひし乙女子よ 夏生 寒椿喰み膝出せる脚 信子 廃線のプラットホーム月渡る 三津子 二十世紀梨(ニジュッセイキ)がころがってゆく 浩司 ウ 三角縁神獣鏡に秋の雷 信 失神中のポケットヴィーナス 浩 ジョン・レノンの優しい声で囁いて 三 裸…

爛柯通信その四「風信子十八号/未来の風」 村野 夏生

ご存じ俳諧小冊子『風信子』。 十八号は実は、この世に存在しない。 月に一度の〝月並〟の会の作品発表を目的としたそれは十七号(平成四年・壬申)で途絶えた。『杏花村』百号は百韻を踏んだ。『風信子』十八号を十八公になぞらえて終ろうナンテ気概も洒落…

風交・連句がゆく

夏生さんが上記爛柯四号「爛柯通信その三」で紹介された、第一回俳諧時雨忌での「冬がれ」の巻を、捌の野村牛耳氏の自註自評を加え紹介する。「野村牛耳連句集 摩天楼」より。(千年) 冬 が れ 第一回俳諧時雨忌オモテ 冬がれや世は一色の風のおと 翁 凍つる汀…

爛柯通信その三「ソット・ヴォーチェ/俳諧時雨忌のこと」 村野 夏生

○武満徹の愛弟子、細川俊夫の書いたものを読んで、ソット・ヴォーチェ(sotto voce) なる言葉を知った。もちろん音楽用語で、細川によれば、これは、 ーー声を高くあげないで、靜かに優しく、しかししっかりと歌うことを要求するのだ、 という。そして彼は自…

百韻首尾「破れジーンズ」の巻

初夏の風網戸を抜けて心太 木々 羽化する蝉の背に光るもの 信子 十万枚目の日灼け少年の髪ながれ 夏生 破れジーンズ洗ふ昼過ぎ 三津子 国境を羊の雲と共に越え 夏 ワイングラスに受ける満月 信 鳳仙花世界まるごとモニターの中 木 あっという間の秋のウィル…

短歌行「絹ごしのエロス」の巻

八月やつなぎつるりと脱ぐ女 浩司 嫦娥の眉のちょっと垂れてる 夏生 イボをとる無花果の汁むず痒く 木々 物干竿を売り歩く声 あのこ ウ 紫に火星の夜明け染まりゆく 信子 クレーの天使と膳所で落ち合ふ 三津子 水中の光と影にありて君 木 食卓に透く鯉の洗ひ…

半歌仙「片思いも恋のうち」

冬の日は裸木の幹に滑りたる 信子 靴音響く寒きビル街 木々 北の人喜ぶ地球温暖化 三津子 玄関先に波の寄せくる 夏生 月宮殿建築資金出す銀行(バンク) 浩司 竹筒からは新酒ぐびりと 信 ウ ありのみと呼びたる祖父の遠い声 仝 日付ふされし万葉の歌 浩 片思…

半歌仙「ビワハヤヒデ」の巻

ビワハヤヒデは伏目の馬よ雪解空 敏江 春草揺れて光る海風 夏生 自家味噌でわが蜆汁うまいな 手留 粉引の皿の罅あたたかし さなえ 半月が落ちたかたわれ呼んでゐる 宏 紫蘇の実に染む指さきの色 信子 ウ 戦場は薄野濡れしピアノ弾く 仝 専業主婦の座を捨てま…

爛柯通信 その二「コラボレーション」  村野夏生

○連句という、この怪物の正体はいったい何だろう。 ○短歌の叫び、俳句の眼、近代詩の陶酔、現代詩の批評―それら全部を包み込んで、なお余りあるといった方がいいか。明治以来の近代日本が忘れ去った巨大な詩的空間がここに眠っていたのである。叫びが眼が、…

箙「連句会四句会」の巻

二人見し雪は今年も降りけるか 翁 冬陽きらめく坂道の上 夏生 駅に向けて影林立するサラリーマン 木々 頭の中は荒野行く風 信子 猿山の政権交代兆しあり 浩司 満月抱いて走る伝令 ハイハイ ウ 裸婦像の高さそろえて林檎おく 浩 二百十日の射的場の旗 信 願ふ…

歌仙「背割れ観音」の巻    両唫

ボスニアに砲声激し 銃口のひとつひとつに花を挿せ 夏生 天の無窮を舞ふ半仙戯 那智 交信の仔猫口ひげふるわせて ヒース月夜を目裡(まなうら)に描く 樹上(ツリートップ)ホテルの青き窓押せば 木菟(づく)の消息ただ一行に ウ 耳蝉の生きよ生きよと囁け…

ああノ会連句、爛柯編集部

十二支行「月下のモルフォ(幻蝶)」の巻金色の落葉の道を独占す 信子 竹採る村のカンと冬空 夏生 銅鐸にいにしへの音籠もりゐて 浩司 人差し指を緑青に染む 信 ウ 工房のモルフォを放つ月光下 夏 鬼灯鳴らす頬のふくらみ 信 網棚に打ち捨てられし魂まつれ …

歌仙行第六章「ほ句」(初出「俳句未来同人」平成9年2月号)

○屋根裏部屋の住まいの俳諧師の出来そこないである。 …… ○芭蕉の俳句というものはない。……「去来抄」でも「三冊子」でも「旅寝論」でも、句とか句くずとか、ほ句付句とかは、厖出(ぼうしゅつ)してくるけれども、俳句はない。 ○発句。ほっ句、ほ句というの…

ああノ会作品、爛柯編集部

半歌仙「勘違ひ平行棒」の巻炎暑なり鬱も憂ひも放り出す 手留 茶髪坊やの飛ぶ熱帯夜 夏生 竜の髭身に生ふ銹を恐れつつ 那智 抽象の絵を四隅から画き 蓼艸 月ヲ背負ッタ男ガム向ヒノ窓ニブラ下ガル 南天 新幹線から検見が降りくる 宏 ウ 定家忌に雲掃く余生夢…

歌仙行第5章「勘違ひ平行棒の巻」(初出「俳句未来同人」平成8年10月号)

○破(やれ)寺の十二神将みな凍つる/勘違ひ平行棒から堕つ ああノ会の蓼艸/南天の付け合。初案「から落下」だった。〈落下〉のザハリッヒな語感も捨て難いが、〈堕つ〉の多義性の魅力の下に一直した。奈落いや、地獄に堕ちる、恋に堕ちる。○誤読について語ろ…