ああノ会連句、爛柯編集部 歌仙「夏木立」の巻

   夏 木 立

夏木立生きとし生ける流離かな      那 智
 五月静かな男青髭             夏 生
優曇華の黙って揺れる軒下に        さなえ
 昼酒汲んで太鼓打ち合ふ          手 留
月冴えてイルカオルカを味方とす       宏
 半額背広の教師集団            敏 江

砂漠が街を吐き出す時もあり           さ
 石の柱の円き手触り               夏
蟷螂のぷっちんぷりんと夫(つま)旨し      宏
 無邪気有邪気が露の相宿             手
世之助が瓢(ふくべ)老女になぶられて      夏
 色絵古九谷守景の月               仝
永遠が瞬きヴィシソワーズスープ         那
 メトロロームの音が溶けゆく           さ
隣の子やうやく乳歯生えそろひ          仝
 祗園伊豆卯に軽き倦怠              那
天人も花も過ぎたる夕吉野            敏
 春の服地をばさと裁断              宏
ナオ
蝶々が狙い定めし銃口に            蓼 艸
 モンロー・カーブの椅子にまたがる        夏
氷柱に乳の形を閉じ込めて             蓼
 冥る守宮に貸しておく梁              敏
稲妻を背負ひて走る憑き神よ            手
 爛柯の斧の月に光れる               夏
秋の蛇に蹤けば冷泉帝陵墓             蓼
 黒鍵ばかりで小曲を弾く              手
逆光裡日本語逆引字典几上             那
 水溢れたり縄文の壷                さ
淑気満つ緞帳重く昇りゆき             蓼
 バレエシューズの裏の白くて            宏
ナウ
降って来るマチスの裸婦の青の群          夏
 我が儘に飛ぶ紙のヒコーキ             那
備長炭(BINCHO)とローマ字で知るコンビニで   敏
 カンガルーの子首をかしげる            さ
花の下露伴の俳話懇切に               夏
 魔笛の韻(ひびき)透る永日             那

(夏生捌 平成六年五月二十二日首 平成六年六月二十六日尾 於東京中野・如庵)