ああノ会連句、爛柯編集部/ 歌仙「東風に死ぬまで」

   歌仙「東風に死ぬまで」の巻


麦秋やただ一本の滑走路       蓼艸
 パナマ帽子が足早に行く        信子
放浪の果冷せいろ啜とよ         手留
 大風呂敷を仮畳みする         那智
竹林に今か降りくる月の舟        夏生
 虫籠売りの合はぬ勘定         宏

萩の膕(ひかがみ)ひびく石の橋     浩司
 不貞寝二階の遠き東京          南天
つま立ちて髪洗ふ身のやるせなさ      信
 波とカモメと海賊とバラ           蓼
歌舞伎町三丁目裏の北ホテル        夏
 瞼に這はす舌のざらつく           手
焚火して月の出を待つ曲馬団        信
 老い易くしてなほ老い難きなり        那
グラスハモニカ響かせ「そして舟は行く」   手
 膝当て光る薬種商です            南
花の夜悪妻たりし母負ひて          蓼
 我が顔ひとつ東風に死ぬまで        那
ナオ
かげろふに盗人役の丈低し          宏
 回転ドアの男銜(くは)える          蓼
欅の梢(うれ)に今日もこだはる鴉A     那
 更地の過去の姿浮かばず           浩
家霊らよ地震(なゐ)がくるぞよ皆出でよ   蓼
 鯨かかりし浜のサイレン            浩
短日をひねもす寝たりヒモとして        蓼
 チェルノブイリを思ふ女ゆゑ          手
ヴィーナスがパスタの皿を捧げ持ち       南
 背景はただ三角の波              蓼
夕月夜眉目飛ばして連弾す           那
 絶叫短歌露の情(こころ)を           手

菊枕縫ふ指先の木綿針              信
 水も時間も急ぐ冥き野              那
海底に蛸翻転の頃なるか             蓼
 イカ徳利は熱燗にして              信
行き倒れても花を浴びつつ上向きに       夏
 春の行方を断崖が断つ              手

(夏生捌 平成八年五月二十六日首尾 於東京中野・如庵)(爛柯二号)