ああノ会作品、爛柯編集部
半歌仙「勘違ひ平行棒」の巻
炎暑なり鬱も憂ひも放り出す 手留
茶髪坊やの飛ぶ熱帯夜 夏生
竜の髭身に生ふ銹を恐れつつ 那智
抽象の絵を四隅から画き 蓼艸
月ヲ背負ッタ男ガム向ヒノ窓ニブラ下ガル 南天
新幹線から検見が降りくる 宏
ウ
定家忌に雲掃く余生夢見しに 夏
象潟抜けてひたすらに追ふ 蓼
紅絹裏(もみうら)を蹴上げの浜に微風吹く 手
流謫王子の一重瞼よ 宏
破寺の十二神将みな凍つる 蓼
勘違ひ平行棒から堕ちる 南
朧月緑交じりの金平糖 宏
麻尼麻尼麻尼と春の水酌む 那
海市行くあんな男と連れ立って 夏
朝寝の床にも一人のオレ 南
花挿頭(かざ)しロボットの列粛々と 蓼
木橋高き腐刻画の空 執筆
(夏生捌 平成八年七月二十八日首尾 於東京中野・如庵)(爛柯二号)
留書「かたつむりむにゅむにゅ……」 井上南天
いつも映画ばかり見ているわけではない。たまには俳句の本も読む。そのなかで、かの三鬼が激賞したという永田耕衣の次の句に引っぱられた。
かたつむり交めば肉の食い入るや
じつにヘビイな句である。しかしむにゅむにゅするばかりで具体的な映像として実を結びにくい。だいたい、相手はかたつむり。なめくじだって不思議なのに、家まで背負ってるからよけいにわからない。おまけに、これを食べる人までいる。ますますこんがらがってくる。
ところが、この句をそのまんま映し出した映画が登場した。『ミクロコスモス』というフランス映画がそれ。森に棲息する昆虫の一日を描いた記録映画(厳密には違うのだが)である。ここにかたつむりが登場して、まさしく二匹の愛の交歓をオペラ仕立てで見せつけてくれる。たしかにエグイ。けれども、美しい。虫屋の奥本先生も「こんなポルノを公開してもいいのだろうか!」と大絶賛。
もちろん、ほかにも種々の昆虫が登場して、これがまたとんでもない曲者ばかりで、嬉しくなる。
時の流れにお急ぎでない人は、どうかご覧あれ。(爛柯二号)