半歌仙「片思いも恋のうち」

冬の日は裸木の幹に滑りたる      信子
 靴音響く寒きビル街           木々
北の人喜ぶ地球温暖化          三津子
 玄関先に波の寄せくる          夏生
月宮殿建築資金出す銀行(バンク)    浩司
 竹筒からは新酒ぐびりと           信

ありのみと呼びたる祖父の遠い声       仝
 日付ふされし万葉の歌             浩
片思いも恋のうちとてもてないクン       木
 誤解の果ての相思相愛             三
そのふたり羽蟻のごとく時を飛ぶ       佳子
 夢二の女夏の月見る              信
坂の上点字図書館閉ざされて          浩
 ヴォイスレコーダー海中にあり         信
ソット・ヴォーチェ深く静かにつぶやける    夏
 やるせなき身の班雪野を踏む          信
花散るよ異土の乞食(かたゐ)の白肌に     夏
 瞳に水を張れる春鹿              執筆

(夏生捌 平成九年十二月十四日首尾 於東京渋谷・種月庵)(爛柯四号)