箙「連句会四句会」の巻

二人見し雪は今年も降りけるか       翁
 冬陽きらめく坂道の上             夏生
駅に向けて影林立するサラリーマン      木々
 頭の中は荒野行く風              信子
猿山の政権交代兆しあり             浩司
 満月抱いて走る伝令              ハイハイ

裸婦像の高さそろえて林檎おく           浩
 二百十日の射的場の旗               信
願ふ間もなく垂直に堕つ流れ星           ハ
 夜間飛行で越える子午線              信
花の下とくとく注ぐ竹の酒              浩
 猫にひと枝猫柳をる                 信
ナオ
小石川植物園に春の中年寄り添ひて        木
 臀腰壮大あたたかきひと              夏
君だって真っ赤に叫ぶに違ひない          浩
 午睡の後の兄嫁の笑み               信
青薄抱へていかむ種月庵               仝
 常夏よりの力士三人                 浩
ナウ
連句会四駆会との差異解し             ハ
 大脳皮質の美顔術なり               信
話そうよダッフルコートの哲学者          木
 砂漠の方へコンドルが去る             信
花散るや貝はお王妃の耳に似て          夏
 復活祭のポスターを張る              浩

(夏生捌 平成九年一月十二日首尾 於東京渋谷 種月庵)(爛柯一号)

挙句の復活祭はキリスト復活記念の祝日で「晩春」。最初、「如月祭」だったがこれでは、仲春になり、花の「晩春」から季戻りをしてしまうので、復活祭に一直。(千年)


  留書「猫町のヒト」   瀬間信子

 私の住まいは世田谷区代田であるが、密かに猫町と呼んでいる。理想には遠いが結構いるのである。お互い全然無関心、猫と人がごく自然にすれ違っている町である。猫は恐がりも急ぎもせずトコトコ歩き、人は人でそんな猫に目もくれない。陽気のいい昼下がりともなれば、道の真ん中に寝そべっている白黒もいる。インドの牛を思い出し、少なくとも猫は足を踏んだりしないしなぁと嬉しくなる。
 声をかけるとまっしぐらに駆けてくる茶トラ、後ずさりしながらも振り返り振り返り去っていくヨモギ、恐縮するほど腰の低い三毛もいる。この間なんか、アパート二階の拙宅の居間で、私の目の前を悠然と横切っていった白&ヨモギもいた。前世はみんなヒトだったのかもしれない。