歌仙「マンホールより夏帽子」  市川千年捌

村を出で冬野に行方不明かな(那智) 鯨の群れのよぎる街道(千年) 綿虫の胸のうちより舞ひ降りて(文乃) 高々あがる起重機の先(青玉) 月面で地球の入りを待ってゐる(文) 草の蔓を引けば実の散る(那) ウ ひと肌の恋しき頃よ衣被(青) ボジョレーヌ…

爛柯編集部  杉田久女の事  川野蓼艸

10月9日の、杉田久女が登場する「菊が丘の家」の全文を蓼艸さんに送付したところ、いろいろこの小説の不備を指摘されつつも、久女について蓼艸さんが医師会の広報に書かれた文章をメールしていただけた。読ませていただき、ほんとに有難くぐっときました。こ…

脇起り半歌仙「さみだれを」の巻  市川千年捌

さみだれをあつめてすゞしもがみ川(翁) 初蜩の遠く近くに(文乃) 鍵盤に己の指を遊ばせて(蓼艸) 巡り歩いて異人館まで(千年) 月光をまとひて馬は羽ばたくよ(蓼) 狗尾草の落ちし校門(つる路) ウ 他郷より蕩児戻れり露寒に(蓼) 大根洗ふ母の太尻…

半歌仙「仮面流血」の巻  千年捌

小春日の遊び心や夏生の忌(千年) ふいに降りくる木莵の声(文乃) 逃げてゆく丸き時計を追ひかけて(真史) 汽車の行先誰も知らない(舞) 山の辺をとりまく詩詞を射すは月(那智) 蓑虫出でて語り始める(真) ウ くにへ送る金婚といふ今年酒(千) 限界…

からみあう心  市川千年

昨日(19年10月12日)、明治大学公開文化講座「声なきことば・文字なきことば」第2回「声なきことば:テレパシー研究の真相」(石川幹人(まさと)明治大学情報コミュニケーション学部教授)を聞きに行った。もちろん、おもしろい今風の連句解釈に役立つ言…

半歌仙「旦暮の詩」の巻  市川千年捌

外寝して鼾絶やさぬ遍路かな(市川千年) 蚊やりの煙青く地を這う(瀬間文乃) 旦暮(あけくれ)の詩(うた)の団扇に滲みゐて(篠見那智) ふと甦る第三楽章(文) 大臣にぶら下がり聞く月のこと(千) 毀誉褒貶は水の澄むまま(那) ウ 初猟は銃身で顔冷や…

小倉 久女 長崎  市川千年

10月1日の蓼艸さんの杉田久女に関する留書を読み、連句初心の頃「花衣」で花の座をあげて花の句を読んだこと、大岡山にあったユングフラウという、東京工業大学の先生や卒業生の常連が多かったバーのママさんが、戦時中、杉田久女の隣家に住んでいて、客の私…

歌仙「鬼やんま」の巻  村野夏生捌

鬼やんま石の中庭占拠せり(浩司) 砂の波濤に月淡き頃(夏生) 腕内に大き冬瓜抱きゐて(さなえ) 嬰児(やや)の眠りを風が誘ふ(那智) 信用金庫は狼なきの犬二頭(宏) 暗箱写真機笑ひさかさま(敏江) ウ フィヨルドや滴る神に君と汝と(那) リアルト…

ああノ会連句 胡蝶「デパートの象」の巻  川野蓼艸捌

くれなゐのグラスを合はす聖夜かな 川野蓼艸(仲冬半) 皆息白き生きてゐるもの 瀬間文乃(三冬他) 森の奥地球の心潜みゐて 葛城真史(/) タイヤの跡の道なまなまし 村田実早(/) 軽業師軽金属の月かざし 小池舞(三秋他) チラシを渡す秋の人騒(ひとざ…

歌仙「誰も誰も」の巻    川野蓼艸捌

誰も誰も居らずなる野や蝶もなし 篠見那智(三春/) ただ真白なるノート晩春 川野蓼艸(晩春/) 膝まづき我を埋めよと花受けて 瀬間文乃(晩春自) タッチソフトで点描にする 葛城真史(自) 月のぼる昼から夜へ万国旗 粉川蕩人(三秋/) 夢物語虫の伴奏 …

胡蝶「夢をほどけば」の巻  川野蓼艸捌

この岸へ真秋の舟を呼戻し 篠見那智(三秋半) 汝(な)と吾(わ)のあはひ木の実降る頃 川野蓼艸(晩秋半) 月昇る錬金術の技に似て 瀬間文乃(三秋/) 竪琴かかへふっと消えゆく 小池舞(他) 本棚に洋酒の壜を並べをり 岡山朱藍(他) 夢をほどけば蛍灯れる 越川和子(…

歌仙「淡彩極彩」の巻  川野蓼艸捌

淡彩極色 オ 万緑よ身を躍らせる我を抱け 瀬間文乃 蛍つつめば透く指の間 川野蓼艸 蟹走る纜を解く刻の来て 篠見那智 スタヂアムよりどっと喚声 小池舞 年表を繰れば八朔とはなりぬ 粉川蕩人 淡彩極彩混じる花野よ 舞 ウ 死海の上満月金を滴らせ 文乃 耳の底…

胡蝶「羊水の記憶」の巻  川野蓼艸捌

羊水の記憶オ 炎帝へ立体交差登りゆく 川野蓼艸 フロントグラスに消ゆ雪解山 瀬間文乃 兜虫今日はよく子の聞き分けて 粉川蕩人 円周率は3となりしよ 蓼艸 天空を曲れば眼下の月細し 文乃 銀木犀のほろほろと散る 蕩人 ナ 肌寒を流離の果てに隠岐にあり 蓼艸…

歌仙「托卵話」の巻  川野蓼艸捌

オ 春を歩む明日よりの我が誰ぞ知る 篠見那智 初蝶空に吸はれ一点 瀬間文乃 桜蘂降らせビル風湧き立ちて 福永千晴 口笛鳴らし犬と少年 川野蓼艸 「月よりの使者」てふ菓子を提げて行く 小池舞 句碑歌碑詩碑の多きやや寒 粉川蕩人 ウ 長髪に蒼穹からめ浅茅原 …

爛柯編集部ー三鬼のガバリ  市川千年

「白の民俗学へ 白山信仰の謎を追って」前田速夫元「新潮」編集長(河出書房新社 2006年)の「死と再生の民俗」の項に「・・・ちなみに、藩政下の金沢で真夏の暑い時分、「ガバリ、ガバリ」の呼び声で売られた氷は「白山氷」と言い、延命長寿、無病息災の呪…

胡蝶「冬を研ぐ」の巻  川野蓼艸捌

冬を研ぐオ 清らかに冬を研ぎをり冬の川 川野蓼艸 寒九の水を択ぶ刀匠 篠見那智 シグナルの青の揃ひし東雲に 長岡蓬亭 傾く地球夢の覚めぎは 小池舞 紫蘇の実のつぶひとつぶの掌よ 粉川蕩人 リセットボタン押して晩秋 蓼艸 ナ 月見酒頤やさしき人の来る 那智…

胡蝶「櫓の音は」の巻  川野蓼艸捌

櫓の音は オ 櫓の音は去年と今年を繋ぎ行く 川野蓼艸 凍てたる闇を衝いて杉の秀 篠見那智 鍋奉行旨き匂ひをたぎらせて 市川千年 猫たち奥に追ひやっておく 小池舞 百年の月明を飛べ紙飛行機よ 粉川蕩人 秋の浜辺を駆けくだる子ら 瀬間文乃 ナ 忍草誰も知らな…

胡蝶「魂の在所」の巻  川野蓼艸捌

魂の在処 オ三秋/ 荻窪の十坪ほどの芋嵐 川野蓼艸 晩秋/ 高架を越ゆる霜降の月 日高玲 晩秋自 新しき皮袋には古酒入れて 坂根慶子 自 トーテムを建て祝ふ生誕 篠身那智 / 竪琴の音は野づらを渡り行く 阿武透子 夏半 夏薊抱け刺避けて抱け 織田紋女 ナ 夏…

歌仙「起爆装置の糸」の巻  川野蓼艸捌 

起爆装置の糸 オ 三冬自 夢浅く薄墨色の枯野かな 川野蓼艸 初冬自 左手(ゆんで)をかざす鶴渡る果 篠見那智 他 鉄筆を荒き鑢に磨ぎ出して 日高玲 / 作文集は二番目の棚 小池舞 三秋/ 月光にタイムカプセル開くなり 市川浩司 仲秋自 宇宙意味する秋桜(こすも…

歌仙「泣くなゴンシャン」の巻    川野蓼艸

嘗て村野夏生がいて本誌にも文章を書いたり、自分の捌いた連句作品を載せていた時代があった。しかし彼は難病となり文学に生きる者が、考えている事が言葉にならないという地獄の苦しみに耐えながら亡くなった。彼の立ち上げた「あゝノ会」は衣鉢を継ぐ者達…

源心「蓑虫の夢」の巻

蓑虫の夢 歌うよう呟くように霜の声(文乃) 猫の飛びつくロングマフラー(真史) アルバムの朋はいつでも笑顔にて(舞) 創立五十周年を出で(蓼艸) ウ 月渡る分水嶺のしじまなる(千年) 手編みの帽子爽籟に享く(那智) 胸を刺す痛みもありや鬼薊(文) …

歌仙「アンモナイトのため息」の巻

アンモナイトのため息 胸坂や秋のいくつもわだかまる(那智) ふいにとぎれるカナカナの声(文乃) 遠鼓ちちぽぽと鳴る望月に(蓼艸) 古武術活かす走法を練る(千年) おだてれば象も空飛ぶ世なりけり(蕩人) ポケットの無い夏のエプロン(舞) ウ 凛とし…

歌仙「バグダッド時刻」の巻

バグダッド時刻 啓蟄や人鉄棒にぶらさがる(千年) 空紺碧に匂ふ紅梅(蓼艸) 逃水を追ひて国境超ゆらむか(文乃) バックパックに詰めるクッキー(舞) 大盃は金繕の二日月(那智) 若書きなのに旅路の秋と(蕩人) ウ 蓮の実を飛ばししじまを深めたり(文…

歌仙「指の先にも魂」の巻

指の先にも魂 某日冬くらくらと血の奔りたる(那智) 金鵄勲章値切る襤褸市(蓼艸) 哲人の狭き門より表れて(舞) 甦りたる川の清流(千年) 寝ころびて博物誌読む月明り(雅子) 男いま乗れ霧の天馬に(冬人) ウ 雁渡る頃なり姉の嫁ぎしは(蓼) 香しくま…

半歌仙「懐手して阿吽」

懐手して阿吽 せせらぎや鳥獣戯画の麻のれん 千年 白雨くるぞと子ども等の声 文乃 ゲラ刷りに汗滲ませて赤入れて 美世子 路面電車の止まる駅前 つる路 風呂帰り月どこまでもついてくる 紋女 手折りてかざす桔梗コスモス あの子 ウ 色鳥の木の葉のごとく飛び…

爛柯編集部ー五山から和歌体

*義堂、絶海に導かれ 義堂と絶海。ふるさとの偉人、五山文学の双璧、連歌の二条良基とも交流・・・こんな知識へ少し中身が吹き込めるかと、足利義満六百年御忌記念「京都五山禅の文化」展(東京国立博物館・平成館)へ。全くたまげた。ここまで義堂周信と絶…

半歌仙「二兆円」の巻

久しく参加していなかった「ああノ会」に、この6月からふたたび出ている。といっても、いつもみなさんのあとからついていく感じ。もともとそうだったから、出ていなかった分の何かを取り戻すというわけでもないのだが、時間のブランクは確かにある。 千年さ…

半歌仙「天声か人語」

天声か人語 三吟九月場所千秋楽を父母とかな 千年 糸瓜の水は六分目まで 文乃 ものの音の澄めばやすらぐカルデラ湖 那智 有明となり好きな所へ 千 何を問ふ角を切らるる鹿の眼は 文 垣に寄りつつ人に依りつつ 那 ゥ 夕焼けて都庁労働委員会 千 インターナシ…

栗山理一の一巻としての連句観 

芭蕉会議の谷地先生の御示唆で、栗山理一「芭蕉の芸術観」(永田書房)を読んだ。その中に連句一巻をどのように評価、解釈すればいいかの非常に示唆に富む文章があったので記す。古典との対比のなかで自説を展開するこの本は今年の収穫の一冊だ。(千年)「…

歌仙「法然忌」の巻

都心連句会主宰の土屋実郎宗匠、湘南吟社主宰の小林靜司宗匠にお出でいただき、昨年4月に巻いた歌仙を掲載します。捌きを御願いした小林宗匠には、自、他、場、自他半(半)の区別まで後日確認させていただきました。後学のために名前の後に記入します。本…