脇起り半歌仙「さみだれを」の巻  市川千年捌

さみだれをあつめてすゞしもがみ川(翁)
 初蜩の遠く近くに(文乃)
鍵盤に己の指を遊ばせて(蓼艸)
 巡り歩いて異人館まで(千年)
月光をまとひて馬は羽ばたくよ(蓼)
 狗尾草の落ちし校門(つる路)

他郷より蕩児戻れり露寒に(蓼)
 大根洗ふ母の太尻(つ)
凍鶴に黙(しじま)の意味を尋ねたり(文)
 群集のなか帰る君はも(蓼)
落人のごとく暮らすとeメール(千)
 煙一筋まろき山より(文)
向日葵の煌々として月出づる(つ)
 大僧正と酌み交す仲(千)
方違へ見知らぬ街のパーカッション(蓼)
 骸骨跳ねるアステカの野辺(文)
碧海に開かれし窓花吹雪(千)
 戦後史刻み春の暮れゆく(文)

(平成19年5月26日首尾 於西荻窪 遊空間)

  
 
   竹林舎青玉真打披露興行

 田辺つる路改め竹林舎青玉さんの真打披露興行を、10月18日、お江戸日本橋亭で見た、聞いた。講談の生は初めてだったが、いやあよかった。尻肉(けつにく)ならぬ血肉踊る感動だった。
 口上では、宝井琴柳師匠の司会で進行。一龍斎貞山講談協会理事「・・たしか私と真打とは全く同じ年で、丁度今年、二人そろって三十五・・名人は上手も下手もなかりけり行くさきざきの土地に合わせて・・」、青玉さんの師匠で田辺一鶴講談協会常任理事「・・東京キッドブラザーズというのは知ってたんですが、ただものじゃないと思ったのは、たいがい演劇の方からやってくると、修羅場がうまくいかない。それが本格的にできちゃう。・・世話物をやっていきいきとした講座をする。・・あ、これはプロにした方がいいと・・講談はね奥が深いんです。・・青玉しかできないような個性のある芸をやってもらいたい!そして、お弟子さんをどんどんどんどんとってもらいたい!よろしく御願いします。」、最後に宝井馬琴講談協会会長「・・もとの芝居で鍛えた芸の力を、どのようにしてまた伝統的な八百年、千年という歴史を持つ講談とちゃんぽんにして彼女が成長していくか大変楽しみです。この世界は化けるということがある・・・一鶴さんは東京オリンピックで売れに売れまして家を三軒たてた・・この話芸はなかなか化けるのは難しいのかもしれませんが、青玉さんがどういう風にして成長していくか。いずれにいたしましても、芝居で鍛えた・・と、諧謔性あふれる一鶴さんの指導で、おそらく足して二で割ったような、立派な芸、青玉ならではの芸・・講談も世話ものがあったり、侠客ものがあったり・・ほんとに底辺が広いです。・・この道だけは負けないというふうになればたいしたものですね・・当協会も女性の方が多くなり・・・」。この後、馬琴会長の発声で、三本締め。
 この日は、貞山師匠、馬琴師匠は出世もの、一鶴師匠は、子ども達や若い世代への講談浸透をねらった「妖怪お化け軍団修羅場」ゲゲゲの鬼太郎宇宙の長者・太政大臣征夷大将軍なり・・・元気元気目はらんらんの一鶴さん、感激しました。
 青玉師匠は、明治時代の「女義太夫 豊竹呂昇物語」。自分の身内のお姉さんが舞台にたっている思いで拝聴いたしました。講談の限りない可能性を実感した秋の夜長でございました。(市川千年)