歌仙「誰も誰も」の巻    川野蓼艸捌

誰も誰も居らずなる野や蝶もなし    篠見那智(三春/)
 ただ真白なるノート晩春         川野蓼艸(晩春/)
膝まづき我を埋めよと花受けて      瀬間文乃(晩春自)
 タッチソフトで点描にする          葛城真史(自)
月のぼる昼から夜へ万国旗        粉川蕩人(三秋/) 
 夢物語虫の伴奏              小池舞(三秋他)
ウ 
蔵の中葡萄酒かもす音を聞く       村田実早(仲秋自)
 かりそめのごとささめきのごと        那智(半)
白き肌赤き唇紗に透けて            真史(三夏他)
 悲しみ移す手のひらの上           那智(自)
蓋をして釘を打つなりコツコツコツ        舞(/)
 こんな晩にもよく眠る奴            舞(半)
子育ての飴買ひに出る冬の月          実早(三冬半)
 コンクラーベ果て生るる教皇          文乃(他)
シンフォニー風に巻かれて街なかへ       真史(/)
 サーカス去りて跡形もなく           文乃(/)
桃花散る女の児にも男の児にも         蕩人(晩春他) 
 軟着陸せよ うらら探査機           文乃(三春他)
ナオ
今の戦は人間不在武器霞む           実早(三春/)
 棒鱈ゆっくりほぐしゆく祖母          舞(三春他)
漂ひて肝胆くらく病みをりぬ           那智(自)
 ゴール直前抜ける差馬             真史(/)
閻魔堂より六本木坂まで歩す          那智(自)
 世界が変る ほだされてゆく          那智(自)
恋文は紙ヒコーキでやってくる         文乃(半)
 紅茶に混ぜるストリキニーネ          文乃(他)
雷は予言通りに鳴り出して           真史(三夏/)
 虚空を指すかリア王の杖            文乃(半)
自画像に月描き足して寂しかり         実早(三秋自)
 とまどひつつも蛇穴に入る           舞(仲秋/)
ナウ
我が友の自裁の菊を捨てきれず         蕩人(晩秋半)
 停車場で聞く遠き舟唄             文乃(半)
音もなく雪しんしんと降り続く          舞(晩冬/)
 「阿Q正伝」つれづれに読む          文乃(自)
故郷の地球を花は覆ひたり            真史(晩春自)
 水のかなたに逃げる逃水            那智(晩春/) 


 平成十七年四月二十四日(日)於・西荻「遊空間」
   
註・タッチソフト、パソコンで写真を加工する技術
 ・カタカナ打越不問。鱈、馬、異生類打越不問。