歌仙「指の先にも魂」の巻
指の先にも魂
某日冬くらくらと血の奔りたる(那智)
金鵄勲章値切る襤褸市(蓼艸)
哲人の狭き門より表れて(舞)
甦りたる川の清流(千年)
寝ころびて博物誌読む月明り(雅子)
男いま乗れ霧の天馬に(冬人)
ウ
雁渡る頃なり姉の嫁ぎしは(蓼)
香しくまた甘露なる乳(千)
ひょっとこのお面あなたについてゆく(那)
指の先にも魂がある(舞)
ステージのバンドネオンの灯の燃えて(雅)
さらに学ぶは酒と世の中(那)
義仲寺のこと繰り返し話さるる(千)
原宿にポト蝉の落ちたる(蓼)
存在の耐えざる軽さ夏の月(雅)
一人で帰る信号は無視(舞)
出でゆきて何処や美童花浴びて(那)
篝はゆらら春はうらうら(蓼)
ナオ
孕馬埴輪の武人ひそやかに(千)
屋根裏部屋に棲みて幾年(舞)
闇にひらく自動扉よ 行くべし(那)
八十二ならまだ半寿なり(千)
「つらいのよ」風呂に入れぬ雪娘(冬)
パレットナイフで自死を遂げたり(雅)
薄々と伯耆大山透けゐたり(蓼)
寿司はいつでも並の山葵ぬき(舞)
ゆきずりの河童にもらふ傷薬(那)
神みそなはすドッペルゲンガー(舞)
びいどろの吹き竿にさす月初更(那)
榲桲の実を菓子に仕立てて(雅)
ナウ
秋冷に模型飛行機燦たりし(冬)
ぽっかりと開く地下鉄の口(蓼)
シャンゼリゼやばい逃げろと奴がささやく(舞)
主と似たる犬の貌あり(千)
花の雨亡き父母の来る傘の内(蓼)
明日葉の辺に言葉享けとむ(那)
(平成15年1月 於・西荻窪 遊空間)