胡蝶「夢をほどけば」の巻  川野蓼艸捌

この岸へ真秋の舟を呼戻し            篠見那智(三秋半)
 汝(な)と吾(わ)のあはひ木の実降る頃      川野蓼艸(晩秋半)
月昇る錬金術の技に似て              瀬間文乃(三秋/)
 竪琴かかへふっと消えゆく             小池舞(他)
本棚に洋酒の壜を並べをり              岡山朱藍(他)
 夢をほどけば蛍灯れる               越川和子(晩夏自)

宵宮にわんこ・にゃんこの帰り来る         粉川蕩人(三夏/)
 背中に透ける刺青ペガサス              文乃(他)
恋文を二重螺旋に封入す                和子(自)
 冷凍パックで送る屍(しかばね)            朱藍(自)
地下はるか断層赤き口あけて              文乃(/)
 天使時間の針止められて               文乃(/)
魚抱いて回転ドアを駆け抜ける             舞(自)
 素数ばかりを並べ一日                文乃(自)
雪よりも淡き匂ひのウクライナ             和子(晩冬/)
 聞けど答へぬ凍月の下                蕩人(三冬半) 
義母を待つ相聞の朝息白し               朱藍(三冬半)
 「畠にゐます」黒板にあり               文乃(他)
ウ 
香水の香りのするよ観世音               蕩人(三夏自) 
 未来に発信 異次元に飛ぶ              舞(自)
若き子ら肩組みてゆく抱卵期              文乃(晩春他)
 階段上から春を見下ろす               朱藍(三春他)
花万朶カフェの卓布の乱反射              和子(晩春/)
 オタマジャクシの泳ぐビーカー            舞(三春/)

  平成十六年十月二十四日(日)於・西荻窪「遊空間」 
   

   伊賀上野紀行   川野蓼艸

 あゝノ会は故・村野夏生が作った会である。メンバーは仲々のものと自負するのだが、固定しない憾みがあった。舞さんが定着してくれ、今回より越川和子さんが来てくれる様になって、これで落ち着きそうで一安心というものである。彼女、連句は未経験だというのだが、こうしてみると仲々のものである。
 詩々拾録でも書いたのだが、伊賀上野芭蕉生誕三百六十年祭の捌に来てくれないか、と近藤蕉肝先生からお電話があった。何でも外国からもお客さんが来るとかで英語の不得意な私は尻込みをしたのだが、通訳付だからという事と、招かれるうちが花だという思いで引き受けた。
 前日の十月九日は尊厳死協会と医師会共催の講演会が開かれ、私はその司会をやる事になっていた。予定ではそれを終え、夜、名古屋に立つ事になっていた。ところが大台風がやってきた。風雨激しく参加者も少なく、新幹線は止まった。男が一旦行くと約束したのを行かないのは信義にもとる。私は御茶ノ水山の上ホテルに無理矢理頼んで泊まり、翌朝五時に出発した。
 名古屋からは折からF1レースが開かれており、電車は混雑を極めた。仏淵健悟、杉山寿子さんと一緒になる。会場の受付で旅費が出ると言われて驚いた。そんな積りで来たのではない、と言ったが、それじゃ困ると言われ、やむなく頂戴した。実作では詩々拾録で述べた通り、テリーさんというカナダの美人が加わり、私は初めての経験であったが、意外と楽しいものだと思った。翌日は俳句吟行会である。
 朝、ホテルで金を払おうとすると、ここでも要らないと言われる。それじゃ困る、私は只酒は飲まない主義だと言ったが、こちらこそ困ります、他の人との兼ね合いもあります、と言われて又その通りにした。
 吟行は昭和生まれで始めて蛇笏賞をとられた宇多喜代子さんと一緒であった。川野蓼艸と申します、以後、宜しくお見知りおきを、とご挨拶申し上げると、ああ、お医者さんでしょう、亡くなられた後藤綾子さんから伺って知っております、と言われ恐縮した。
 翌日はウイークデーであり、やむなく帰京したが、思えば忙しない二日間であった。