胡蝶「冬を研ぐ」の巻  川野蓼艸捌

     冬を研ぐ

オ 清らかに冬を研ぎをり冬の川        川野蓼艸
   寒九の水を択ぶ刀匠            篠見那智 
  シグナルの青の揃ひし東雲に        長岡蓬亭
   傾く地球夢の覚めぎは           小池舞
  紫蘇の実のつぶひとつぶの掌よ       粉川蕩人
   リセットボタン押して晩秋           蓼艸
ナ 月見酒頤やさしき人の来る           那智
   言はずもがなの言葉飲みこむ         蓬亭
  不器用な恋を削ぎたり鋭角に          舞
   我が骨はづし彼の骨接ぐ           那智
  補陀落はまだかと舵手に聞いてみる       那智
   油小路に矢印のある             舞
  獄窓にふと振り仰ぐ汗の月           蕩人
   反戦の声遠くかすかに            蓬亭
  死ぬ人の当り散らしや息白く          蓼艸
   アルバム黄ばみ長き来し方          蕩人
  エンゼルの今飛び降りる避雷針         舞
   前衛舞踏ボロを着て出る           蓬亭
ウ 父よ母よ汝よ我よ炎帝よ            那智
   脱ぎたる蛇の見返りの街           舞
  ビー玉の転がることも時国家          那智
   蝶々来いと万国旗振り            那智
  花微動だにせず吾妹の胸薄し          蓼艸
   かたびら雪をまとひ舞ふなり         舞

 平成十六年一月二十五日(日) 於・西荻遊空間
 註・時国家、能登にある。平時忠が流され、その子孫が住む。