胡蝶「櫓の音は」の巻  川野蓼艸捌

    櫓の音は


オ 櫓の音は去年と今年を繋ぎ行く       川野蓼艸
   凍てたる闇を衝いて杉の秀        篠見那智
  鍋奉行旨き匂ひをたぎらせて        市川千年
   猫たち奥に追ひやっておく        小池舞
  百年の月明を飛べ紙飛行機よ        粉川蕩人
   秋の浜辺を駆けくだる子ら        瀬間文乃
ナ 忍草誰も知らない落とし穴           舞
   不実な美女の氏と素性よ           那智
  掻いてやる胸乳の青き静脈を          蕩人
   燃えないゴミに姉の抜け殻          文乃
  最後まで分りあふことなかりしに      阿武透子
   シャンパン入りの生チョコレート       舞
  新月のごとくに鷹の瞑目す           文乃
   我が魂魄は雪しぐれして           那智
  梅林の裏に鬼たち走り去る         篠原詠美
   伊予柑一個あんぐりと入れ          千年
  風光り小面はらとしほるなり          透子
   菩薩を拝むやうに描くべし          千年
ウ 煙立つ人体晩夏に焼かれけり          那智
   乾いた道を蛇が横切る            舞
  神様が奏でる音はロココ調           詠美
   生涯一度の一等賞だど            蕩人
  花の夜の螺旋階段不意に消え          透子
   素足で急ぐ穀雨やはらか           詠美

  平成十五年十二月二十一日(日)
  於・西荻「遊空間」