歌仙「バグダッド時刻」の巻
バグダッド時刻
啓蟄や人鉄棒にぶらさがる(千年)
空紺碧に匂ふ紅梅(蓼艸)
逃水を追ひて国境超ゆらむか(文乃)
バックパックに詰めるクッキー(舞)
大盃は金繕の二日月(那智)
若書きなのに旅路の秋と(蕩人)
ウ
蓮の実を飛ばししじまを深めたり(文)
鳥獣も哭け母は死んだり(蓼)
バグダッド時刻現在午前九時(千)
ゆっくり落ちる水挿しコーヒー(那)
薄絹の七彩になる窓辺にて(舞)
晴れ時々はハムレットだよ(蕩)
寝刃(ねたば)研ぐ明易の月残りをり(蓼)
青いバケツに囮鮎ぴち(舞)
神在りき摩尼摩尼と湧く苔清水(那)
狼煙をあげて居場所知らせる(蓼)
新世界ドボルザークに花の闇(文)
風光るなか羽づくろひする(蕩)
ナオ
「殺すな!」のカード列なす五月祭(文)
まなざし遠く遍路老いたり(那)
ひっそりと蛇の這ひ入る白き胸(文)
身を反らしつつ仰ぐ絶巓(那)
のらくろもアトムもいないいないバア(蕩)
ショパンの遺髪美術館には(蓼)
ワインへはあの冬の日のチーズ添へ(舞)
雪は霏霏たり縄跳びの縄(蓼)
サーカスの小屋から来る転校生(文)
蘭の高値に笑ふペテン師(千)
待宵の一根となす一痕よ(那)
海鳴りの果ニライカナイ秋(文)
ナウ
肌寒の新丸ビルの避雷針(千)
てくてくのそのそぶらぶらと行く(那)
幻想の幌馬車疾駆赤マント(文)
棒高選手止まる一瞬(蓼)
蝋涙に生死はろけく花万朶(那)
磐余(いわれ)の池に数珠子透けたり(文)
(平成十五年三月二十二日首尾 於・西荻窪 遊空間)
捌きをしていながら、挙句の「いわれ」と「数珠子」の記憶が消えていたので、文乃さんに問い合わせたらさっそく以下のご返事を頂いたので掲載します。(千年)
数珠子は「じゅずこ」と読みます。ずずことの読みもあるようでこちらも可愛いですね。蛙の卵のことですが、昔は善福寺の池にたくさんいて採りに行ったものです。透明な中に黒の点々がきれいに並んでいて花の種のようですが、感触がずるずるとなんとも奇妙、ゼラチン状の紐みたい。しかし、この句、当方記憶になくもしや名前だけかもしれません。
万葉集: 磐余(いわれ) 大津皇子(おおつのみこ)の「百伝ふ磐余の池に鳴く鴨を今日のみ見てや雲隠りなむ」に詠まれている「磐余(いわれ)の池」があったとされていますが、現在のどこにあたるかははっきりとはしていないようです。(文乃)