歌仙「黄金の房」の巻
娘かおり、博士となる
春雨や揺れて博士の黄金(きん)の房 夏生
弥生の瞳満つるよろこび 蓼艸
はだれ野を夕陽一閃切り裂きて 手留
根つき三ツ葉の売れゆきのよき 浩司
薄月を描き足して閂(かんぬき)を差す 那智
ウスバカゲロウ生(あ)るる岸辺に 南天
ウ
ピカソ風に秋思の顔をしてゐたり 蓼
案山子の足に穿(は)かすジーンズ 手
褪せてゆく多島海図と彼の文 那
嫉妬の炎(ほむら)泡風呂に消す 手
伊勢丹を出て凩の平手打 蓼
福助はただ頭ふりふり 南
まっすぐに心をのぞく夏の月 仝
海兵団は林間に散る 夏
墨継ぎを濃くこの世なりあの世なり 那
なほひそやかに遣水(やりみず)の音 手
躓きて人思い出す花の中 浩
モグラも眼鏡外す朧よ 南
ナオ
鬼女の装束脱ぎ白酒を汲み交わす 蓼
ミス・ミズ・ミセス古都を回遊 手
男の絶望は火星にまで届く 南
列柱の影連なってゐる 蓼
原子炉の埃を今日も掃き飛ばし 浩
炭焼く煙にムせてゐる君 仝
江戸前の鮨腹いっぱい食ひてえな 手
息災の胸滴りて夕 那
「ゴメンナサイ。姉が滞在しています」 南
やさしい人は給料が安い 夏
ゴッタ煮のマンハッタンの望の月 蓼
唐招提寺の秋の口笛 夏
ナウ
地芝居の菅秀才の首小いさ 蓼
小便小僧裏へ回って 夏
放浪の旅路の果てはデンマーク 南
日曜なのに家事お手伝ひ 浩
中世の戦ひの野の花一樹 夏
岐良良(きらら)に著(しる)き初虹の円 那
(夏生捌 平成九年三月二十三日首尾 於東京中野・如庵)(爛柯1号)