半歌仙「旦暮の詩」   三唫

外寝して鼾絶やさぬ遍路かな      千年
 蚊遣りの煙青く地を這う         文乃
旦暮(あけくれ)の詩の団扇に滲みいて 那智
 ふと甦る第三楽章              文
大臣にぶら下がり聞く月のこと        千
 毀誉褒貶は水の澄むまま          那

初猟は銃身で顔冷やしたり          文
 塩狩峠どぶろくを噛む           千
時代劇専門チャンネルガイド欲し       那
 トランクの鍵忘る踊り子            文
ラブレターあれじゃ暗いと言われたる     千
 リストカットの数だけの恋           文
冬麗の子の宮に月満たすべし         仝
 とらひこと呼ぶ惑星のあり          千
六本木他生の貌の行き交うて         那
 浜辺にまるき玻璃の一片           文
花万朶みな老い易く老い難き         那
 ブログ発信春の曙               千

(平成十八年六月二十五日首尾 於東京杉並・遊空間)

昨日のああノ会例会での作品。オモテ三句目、「旦暮」は日野草城の句集の自序にある「俳句は諸人の旦暮の詩である」という言葉からと那智さん。
那智さんは俳人の沼尻巳津子さん。高柳重信、桂信子に師事。本当に楽しく、深く勉強になります。
ウラ八句目、「とらひこ」は寺田寅彦のこと。高知の天文学者関勉さんが発見され、命名されたとか。最近読んだ「寺田寅彦は忘れた頃にやってくる」松本哉著(集英社新書、2002年)に書かれてあった。子宮から宇宙へ逃げさせてもらった恋離れの句。月と星は擦り付け。付きすぎとは言わない、たまに許される方法か。
寅彦といえば、「連句雑俎」。
「……読者はむしろ直接に、たとえば猿蓑の中の任意の一歌仙を取り上げ、その中に流動するわが国特有の自然環境とこれに支配される人間生活の苦楽の無常迅速なる表象を追跡するほうが、はるかに明晰に私の言わんと欲するところを示揚するであろう。……このようにして一連句は日本人の過去、現在、未来の生きた生活の忠実なる活動写真であり、また最も優秀なるモンタージュ映画となるのである。……」『寺田寅彦随筆集第三巻小宮豊隆編』(ワイド版岩波文庫、1993年)より。
高知には山田一郎、榊原忠彦、沢英彦等寅彦研究者が多い。寺田寅彦連句の世界を書かれた宇和川匠助高知大学教授の本もあった。(千年)