脇起半歌仙「夏の夜」や   村野夏生捌

夏の夜や崩れて明けし冷やし物     翁
 ハーブの香する緑陰の卓         夏生
臍の穴天に向かひし赤子ゐて       浩司
 帝力ナンゾ我ニアランヤ          夏
大皿に小さき玉兎を遊ばせる        浩
 古道具商の格子戸に蔦           夏

木琴の音の身に沁むるオリンピア      浩
 謎の黒絵はエトルリアから         夏
夢語りジュリエット役二人つれ        浩
 重層都市に情死三つ四つ          夏
聞いている顔する犬と「田園」を       仝
 河口に臨み心地よき風            浩            
核実験もういいかいと凍月に         夏
 ピリカピリカと滅ぶ言葉よ          浩
アンパンやって茶髪なんどが日本語か    夏
 御祓ひされて賜はりし神酒           浩
花明かり一村の夕べ静かなり          夏
 妹の素足は春の水ふむ            浩

(平成八年夏 於東京中野・珈琲屋)

この半歌仙は千年(浩司)がまだ連句初心の頃、夏生さんに言葉を引き出されて巻いた思い出の両吟。しばし、じっと沈思黙考、空転の連続。冷や汗ものだった。
オモテ月の座「玉兎」は打越の天が月と障るので、月の文字を使わずにその異名を選択し噂の月にした。月には異名が多い。(千年)