爛柯(RANKA)ノ辞   村野夏生

爛柯。
愛用の『大辞典』によると、
〈木こりの王質が四人の童子らの打つ碁をナツメを食べながら時を忘れて見ていると、斧の柯(え)が爛(くさ)り、帰ってみると当時の人は誰もいなかったという「述異記」の故事による〉とあって、
 囲碁にふけって時のたつのを知らぬこと。転じて、好きな遊びに心を奪われて時のたつのを忘れること。とある。

 中国の晋時代の故事とされる話から生まれた言葉だが、連句の小冊子を今度作る時にはぜひ、これを使おうと、長い間心の中であたためていたタイトルである。
 〈例会控〉という素気ないものから始まって、〈杏花村〉〈風信子〉〈雲〉と、ぼくの小冊子遍歴も代を重ねたが、今しばらくは、この〈爛柯〉を仮の宿としたい。
 一顆明珠ナンテ言葉なかったかしら。友よ!願わくは我らがナツメ一顆、こころよく賞味され給え。そして、しばしの時を忘れたまえ。
 マックのマウスも爛れ。
(平成九年四月一日 於東京渋谷・種月庵)(「爛柯」第一号より)