歌仙「篝火の濁り」の巻     川野蓼艸捌 

離れ鵜の眼に篝火の濁りかな      篠見那智
 つのる漆黒梅雨寒の中         川野蓼艸
噴井ゆけ蒼天を抜く決意もて       瀬間文乃
 高く私の紙のヒコーキ          市川千年
砂丘にて駱駝の上の「月の歌」      金盛しづ
 秋の夜長に冷酒を飲み         竹林舎青玉

竜胆に風立ち我はワンピース       阿武あの子
 背中のボタン貝の虹色             文乃
抱擁を染め上げ大き入日なり          千年
 打ちし刀身水に突っ込む            蓼艸
これが死か母にはもはや蚊は来ずよ       文乃
 テニスコート無人公園            あの子
月浴びて枯葉掃く僧影長し           青玉
 炬燵に入りて猫と戯むる            しづ
遺伝子のメロディーてふもの聞かされて     千年
 厳戒の首都フェルメール展          文乃
花万朶この身に無双尽くしをり         那智
 橋より遠き浅間春雪              しづ
ナオ
山裾に転がりてをり孕み鹿           青玉
 中途半端に人志す              那智
廃線の鉄路伝ひて逢ひにゆく          文乃
 叶はぬ夢の濡れぬ枕よ            しづ
ジェラシーを詰めて火宅は遥かなり       文乃
 烏賊釣船の灯り消えたり           青玉
「神々の黄昏」ばかり幾昼夜          文乃
 美空ひばりが講談となる           千年
木偶師のゐて両性の具有とか          文乃
 二人の間はメル友どまり            しづ
心身症病みそめゆきて月昇る           那智
 夜なべの毛糸部屋にころがる         千年
ナウ
洋上に路あり林檎かじりては          那智
 東京上海日帰りの旅              千年
思ひ出は人それぞれの万華鏡          しづ
 軽き命のその果ての果て           青玉
花が来る心揺るがせ地を揺らせ         青玉
 春泥乾く新品の雛                千年

  
  平成二十年六月二十八日(土)
  於・西荻「遊空間」