歌仙「私といふ交流電燈」の巻

「私といふ交流電燈」望月夜(信子)
 誰のものでもない虫が鳴く(千年)
赤い羽根行く手行く手に咲き出でて(紋女)
 メインストリートピザ宅配便(あのこ)
冗長なパッサカリアと暖房と(蓼艸)
 鯨の心臓かすか光りて(夏生)

何者か海から来たる足の跡(信)
 我を背負ふは母かイエスか(紋)
青嵐に傷の深さを聞いてみる(信)
 やさしさごっこの長きたそがれ(夏)
獣となって貴女に逢ひに行く(千)
 まるで隣に移るやうに死にませう(夏)
押入より布団被って現れる(三津子)
 「出た出た月が」狂女凍てつく(紋)
河口まで旋律流され消えにける(千)
 人はやっぱりレアよりウェルダン(夏)
雲辺寺まで花まとひ髯引きて(千)
 ミトコンドリアささやきの春(あ)
ナオ
ホーキング宇宙理論のシャボン玉(信)
 モデルの女ポーズ解きたり(仝)
口移しされたるワイン臍あたり(紋)
 言訳ばかり一枚の舌(蓼)
幼年の記憶にものの饐えしこと(あ)
 蛍の光入り乱れたる(夏)
四次元よりのサインにはっと気づく夜(信)
 ボスニア遠く響く銃声(夏)
夢つづる明恵の日記今も冴え(あ)
 瓔珞を置く冥き天平(夏)
名馬逝く横浜野毛の繊月よ(千)
 せめてのことに香れ残菊(紋)
ナウ
衣被食むぞいざ子等寄れよかし(あ)
 親指の爪透け痛むてふ(夏)
銀行の合併話あちこちに(千)
 土筆つくづく溜息をつく(紋)
槌音は鬼彫る音か花冷えに(蓼)
 いかるが工房うらら曙(あ)
(蓼艸捌 平成十年十月三日首尾 於東京渋谷 種月庵)