百韻首尾「破れジーンズ」の巻   村野夏生捌

初夏の風網戸を抜けて心太(木々)
 羽化する蝉の背に光るもの(信子)
十万枚目の日灼け少年の髪ながれ(夏生)
 破れジーンズ洗ふ昼過ぎ(三津子)
国境を羊と雲と共に越え(夏)
 ワイングラスに受ける満月(信)
鳳仙花世界まるごとモニターの中(木)
 あっといふ間も秋のウイルス(信)

浜夜明古代クジラの化石拾ふ(夏)
 骨洗ふ手も透き通りゆく(信)
「好きになり生き方変えたことあるの?」(木)
 雨ニモ負ケテ風ニモ負ケテ(夏)
スキップで赤い絨毯登りつめ(信)
 鼻先に貼り脂肪とります(木)
花散る坂立原道造記念館(夏)
 設計図にも揺れる陽炎(信)

(平成九年六月八日首尾 於東京渋谷 種月庵)