歌仙「氷山の崩壊」の巻   川野蓼艸捌

寒風や気づけば我も怒涛なる        篠見那智(三冬自)
 プラットフォームに満つる歳晩      瀬間文乃(仲冬/)
白鳥の一点となり消え果てて        川野蓼艸(晩冬/)
 思索の末の行きつ戻りつ         志治美世子(自)
月見酒動かぬままの古時計         市川千年(三秋自)
 菊枕して過ごす屋根裏          千年(晩秋他)
ウ  
サーカスのテントに木の実降り積もり    文乃(晩秋/)
 夢の女人は人知れずこそ         那智(半)
草原に小面をつけ待ち伏せる        文乃(半)
 壁の向かうに抜ける打釘         那智(/)
氷山の崩壊青を散らしつつ         文乃(/)
 廃墟の街に住みて幾年          美世子(自)
夏の月顔に目鼻のなき者の来        蓼艸(三夏半)
 キリスト像に金雀枝をかけ        文乃(三夏他)
遥かなる国より戦火飛びきたる       美世子(/)
 各駅停車まだ発たぬなり         那智(/)
花吹雪吾が幻の宴消す           文乃(晩春自)
 猟師の腰の雉の揺れつつ         美世子(晩春自)
ナオ  
寝ころびし遍路二人はかく語りき      千年(三春他)
 憂鬱を抱き目借時買ふ          美世子(晩春自)
ため息をついてもついてもまだ他国     那智(自)
 書を捨てて会ふ姉の裸身よ        千年(三夏半)
草隠れ仏性もてる蛇の愛          那智(三夏/)
 黒髪閉ざす夏の館を           文乃(晩夏他)
OH!と口広げてヴィデオ終了し      文乃(他)
 外反母趾が朝市に行く          美世子(自)
亡骸を砂丘の雪に埋めるなり        美世子(晩冬半)
 恙なしやと古の人            那智(半)
淀川と淡海を照らす望の月         千年(仲秋/)
 べったら市の賑ひをゆく         文乃(晩秋自)
ナウ 
秋草の散る小紋なり躙口          美世子(三秋他)
 高々と声あげて旋頭歌(せどうか)     文乃(半)
足ごとに寄せる波をば消してけり      美世子(自)
 海亀ゆるり返す未来へ          千年(/)
狂ふことのみの残りし花万朶        那智(晩春他)
 指文字ばかりで過ごす永き日       美世子(晩春他)

 
平成十九年十二月二十三日(日)首尾 於・西荻窪「遊空間」


「書を捨てて会ふ姉の裸身よ」。当日欠席の竹林舎青玉さんが、小林由起子の名で助演女優としてでた寺山修司監督の映画「書を捨てて街に出よう」を丁度見たばかりで、姉のいない私が、姉のように思ってしまった青玉さんの青春映像を見た衝撃を思わず絶句してしまいました。(千年)