芭蕉会議・白山連句興行中

 芭蕉会議の世話人・安居正浩さんの「酢豚定食おとなしく待つ無月かな」が1月18日のNHK俳壇で正木ゆう子氏に紹介され、それを発句として、谷地海紅先生の脇「一輪挿しに萩の一枝」に私が「愛の羽根つけた武将の現れて」と第三・・・となると巻かずにはおられない。会員掲示板から白山連句会へ移行して興行開始。酢豚が俳号の安居さんの軽み・・・若い頃の作品だそうだが、酢豚定食で句になるとは、おみごとです。定食屋さんに置かれた一輪挿しが、夢に出てきた茶室の一景に。武将は天地人の兜に愛を掲げた直江兼続か?あるいはNHKあたりで戦国物ドラマの記者会見?(千年)

半歌仙「臘梅の黄」の巻

臘梅の黄に始まりし朝かな    千年
 冬眠の熊鼻鳴らしたる       文乃
言の葉の大海原にたゆたふて    しづ
 マラソンランナー越ゆる急坂    青玉
しなやかにさす新走り月明に     那智
 案山子の貌に笑みのこぼるる   あのこ

零余子飯白寿の母のめでたかり    青
 脛(はぎ)美しき少女傍ら       那
恋文は鶴に折られし千羽まで      文
 殺し文句を発止とささやく       那
あの時もこの時も又記憶失せ      文
 ベビーマンモス甦る頃         千
夏の月厠の神を照らしたる       あ
 灰の相場を弾く商人          し
命終はドブロブニクを望みとす     那
 胡蝶の夢に我は埋もれて       あ
海市より吹きくる風は花吹雪      文
 のどかに響く青山の鐘         青


(千年捌 平成20年1月25日首尾 於西荻窪・遊空間)

中谷先生を偲ぶ会

写真は、平成8年9月7日、埼玉県飯能市・竹寺で催された「中谷先生を偲ぶ会」(主催・鈴の会(新学社内))でのひとコマ。中谷孝雄先生が亡くなられて一年(9月7日没)。当時「鈴」(発行人・伊藤桂一)にああノ会の連句を一巻掲載していた縁で、夏生さんに誘われ私も参加させていただいた。檀一雄の奥様が、変な言い方だが、檀ふみそっくりの佇まいで境内にいらっしゃったのが記憶に残っている。
後列右から二人目が村野夏生師、その隣が私。竹筒のお酒をいただいた。ここで初めて別所真紀さんにお会いした。群像の元編集長・大久保房男氏も昼食(宴)前に何かスピーチされていた。福田和也保田與重郎を評論でとりあげていたのを評価するような内容だったと思う。(千年)

短歌行「鷹放つ」の巻

ニッポニアニッポン鳴らせ爽籟を  文乃
 能舞台より眺む新月         しづ
長き夜の枕に言葉降りつもる     那智
 木の香まとはる山の生活      千年

雨粒の少し残りし金蓮花       青玉
 曇り硝子に指で書くDEATH       文
背鰭もてつらぬき通す初一念      那
 思ひあまりて鷹放つ時         し
ついと立ち北窓塞ぐ姉素足       文
 探り当てたる恋の隠し処        千
花少し動いて蛇のとおりゆく       文
 手に手を取つて逃水の中        青
ナオ
春惜しみ頭ノ中将薄笑ひ        蓼艸
 解散風の吹き渡る日々         青
本物を見極めがたきこの世なり      し
 健康診断列の短き            文
神仏も綿菓子を召せ夏祭         艸
 手招きしてる絽羽織の女        青
落下する月抱き止めよ君の腕       文
 おぶはれてみて覚悟する秋       し
ナウ
雁遠くなりゆく記憶また遠し        艸
 ワインボルドー冷たくし給へ       那
咲きました花の便りの貴船より      艸
 段駄羅談義春の暮れゆく        し


(千年捌 平成二十年九月二七日首尾 於・西荻窪 遊空間)
 
「段駄羅」五七七五の七七を同音異議にして遊ぶ。輪島塗りの職人さんたちが作業中に嗜んでいたようだ。
 例「秋の辺に吾亦紅咲き/我も子兎/ともに跳ね」(織田道代) 最後の五をいただき「ともに跳ね端よりタンゴ/花より団子/うれしいな」(千年)と続けるらしい。道代さんは、ああノ会での紋女さん。いろんな言葉遊びを探求されているようだ。

ウラ六句目「恋の隠し処」は、光田和伸先生の画期的な徒然草考察論である「恋の隠し方」(青草書房 03-5772-0761)を丁度読んでいたなかでいただいた言葉。しかも、蓼艸さんがこの本の書評を「れぎおん」(編集発行人 前田圭衛子)の今度の号に書かれたとのこと。(千年)

歌仙「篝火の濁り」の巻     川野蓼艸捌 

離れ鵜の眼に篝火の濁りかな      篠見那智
 つのる漆黒梅雨寒の中         川野蓼艸
噴井ゆけ蒼天を抜く決意もて       瀬間文乃
 高く私の紙のヒコーキ          市川千年
砂丘にて駱駝の上の「月の歌」      金盛しづ
 秋の夜長に冷酒を飲み         竹林舎青玉

竜胆に風立ち我はワンピース       阿武あの子
 背中のボタン貝の虹色             文乃
抱擁を染め上げ大き入日なり          千年
 打ちし刀身水に突っ込む            蓼艸
これが死か母にはもはや蚊は来ずよ       文乃
 テニスコート無人公園            あの子
月浴びて枯葉掃く僧影長し           青玉
 炬燵に入りて猫と戯むる            しづ
遺伝子のメロディーてふもの聞かされて     千年
 厳戒の首都フェルメール展          文乃
花万朶この身に無双尽くしをり         那智
 橋より遠き浅間春雪              しづ
ナオ
山裾に転がりてをり孕み鹿           青玉
 中途半端に人志す              那智
廃線の鉄路伝ひて逢ひにゆく          文乃
 叶はぬ夢の濡れぬ枕よ            しづ
ジェラシーを詰めて火宅は遥かなり       文乃
 烏賊釣船の灯り消えたり           青玉
「神々の黄昏」ばかり幾昼夜          文乃
 美空ひばりが講談となる           千年
木偶師のゐて両性の具有とか          文乃
 二人の間はメル友どまり            しづ
心身症病みそめゆきて月昇る           那智
 夜なべの毛糸部屋にころがる         千年
ナウ
洋上に路あり林檎かじりては          那智
 東京上海日帰りの旅              千年
思ひ出は人それぞれの万華鏡          しづ
 軽き命のその果ての果て           青玉
花が来る心揺るがせ地を揺らせ         青玉
 春泥乾く新品の雛                千年

  
  平成二十年六月二十八日(土)
  於・西荻「遊空間」